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「やはり京都はいいですね」
豊川は遠い目をして続けた。
「京都の桜、紅葉は定番ですが、新緑の時期もとても美しいです」
昼過ぎに修学旅行の下見から戻った豊川は光流とゆき乃、仕事が終わった美津を家へ招待した。
豊川の住む屋敷は雷門近くの三栄町会にある無事富稲荷の社が入口となっている。
その小さな祠の入口は純和風の屋敷へと続く、異界の扉だった。
上機嫌である豊川は 、豪華な昼の膳を皆に振る舞った。
「そんなに京都いいですか?俺、修学旅行のときに恐ろしいモノをたくさん見ましたよ?……あ、これ、うま」
光流は昼間からの上等な酒と肴に舌鼓を打つ。
「京都は風水に忠実に造られているから神にとってパワースポットなの。…だけど、それは妖怪にとっても同じ。それが魑魅魍魎の集まる原因なのよね…」
美津は伊万里焼のおちょこに口をつけた。
豊川は光流を見る。
「この浅草も同じことです。力の強い街だからこそ、悪しきモノも集まりやすい」
豊川のその言葉で、光流は別れ際のぎーの言葉を思い出した。
「さっき、ぎーが嫌な気の塊があるとか言ってました」
「まだ、邪気とも瘴気とも呼べない小さな気です。大きくならず、散ってくれればいいのですが…」
豊川の表情は曇った。
ゆき乃は皆の会話を黙って聞いている。
そのゆき乃の様子を見て、向かいに座る豊川は、愛おしそうに目を細めた。
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