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「修学旅行、楽しみですね。三井さん」
「…はい」
豊川の視線を避けるように、ゆき乃は目の前の赤い漆器の椀を見つめた。
その様子を隣で見ていた光流は、意地悪く鼻を鳴らす。
「フン、お前京都なんか行ったら魑魅魍魎にすぐ狙われるぞ」
「え…」
ゆき乃は絵本で見た百鬼夜行の妖怪たちを思い浮かべ、青ざめる。
「大丈夫ですよ。僕がついていますから」
豊川は人間の姿であるが、着ているものは貴族の衣冠束帯だった。
濃茶の髪はセンターで分けられて、同じく濃茶の瞳の際(きわ)で揺れる。
「…はい」
ゆき乃は、よく分からないタイミングで返事をした。
「私もついて行こうかしら?フフフ」
美津は楽しそうに笑った。
「じゃあ、俺も行く!」
光流も乗る。
その、やりとりを聞いた豊川は、にっこり笑ってパンと手を叩く。
「じゃあ、皆で行きましょう!」
ゆき乃はその場の全員の顔を見回した。
「え?…えぇ!?」
その時、現代の浅草六丁目。
江戸期に猿若町と呼ばれた午後の街角で、拍子木を打つ音が響く。
カーーーン、カーーーン、カーーーン…
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