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ピチョン…ピチョン…
暗渠(あんきょ)の下水道から歌が聞こえる。
「春の小川は、さらさら行くよー
岸のすみれや、れんげの花に、
姿やさしく、色うつくしく
咲いてゐるねと、ささやきながらー」
唱歌「春の小川」は渋谷を流れていた宇田川を歌っていると言われる。
「ねぇ、すー?蛍がいた渋谷の川もここと同じように地下の川になったんだよ」
暗闇の中で、緑色の肌をしたそれは、枯れ木のようなモノに話しかけた。
「ねぇ、すー?目黒川にいたカワウソ君たちも、みんな死んでしまったよ」
「……」
「ねぇ、すー?合羽屋喜八のおやっさんも、とうに死んでしまったよ」
「……」
「ねぇ、すー?隅田川のおいら達の仲間もみんな死んだよ」
「……」
「ねぇ、すー?君も死んで、おいら一人ぼっちだよ」
カサカサ…
河童のぎーは、ミイラとなった、すーに頬擦りをした。
カサ…
ピチョン…
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