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「……」
ゆき乃は通話の切れた携帯を見つめた。
「行きましょうか。主(あるじ)さまのご命令ですし」
豊川は早速、机の上を片付け始める。
「え…先生、会話聞こえたんですか?」
「フフ、すみません。…耳は良い方なんです」
「そうですか」
やはり豊川は普通の人ではない。
荼枳尼天の化身なのだ。
ゆき乃は改めて、そう思った。
「あ、でも先生?私と外を歩いても大丈夫ですか?」
ゆき乃は教師と生徒という立場を気にした。
豊川は顎に手を当てて少々考え込む。
「んー、大丈夫でしょう。いざとなれば、この眼を使いますから…」
そう言った豊川の濃茶の瞳は金色に変わり、強く輝いた。
「先生…」
その金の瞳を見たゆき乃は、何もかも受け入れる気持ちになる。
それは豊川のマインドコントロールの能力だった。
人間の社会に紛れて暮らすには、やはり何かと矛盾が生じてくる。
そんな時に金の瞳は有効な力だ。
「ね?」
豊川はニッコリと笑った。
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