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中にいる人物の存在を隠すようにその部屋は薄暗かった。
真冬にどぶ川の側で群がるホームレスのように震える手で十字架を握る男。
神を裏切って見放されても尚、神にすがろうとは、悪魔さえ呆れる所業だろう。
彼に手を差し伸べるのは、死神くらいだ。
彼の肩には、既に死神の手が置かれているかもしれない。
審判の扉は乱暴に開かれた。
「スコット・アンダーソン。取り巻きが居なくて涼しそうだな。おとなしくすれば、クーラーの効いたブタ小屋が待ってるぜ」
皮肉を込めたような笑みを見せる、夢魔のようにセクシーな白人美女。
タンクトップとホットパンツに包んだ、日焼けした肢体は引き締まっていて、無駄な贅肉が見あたらない。
長いダークブラウンの髪をうなじで纏め、目元まで延びた前髪を左手でかき上げる。
彼女が夢魔ならば、右手に見える重厚な45口径の1911は、死にたいという欲求の現れなのだろうか?
この膝の上のジェリコ941もそうなのだろうか?
おもむろにジェリコのグリップを握り、自らの側頭部にマズルを当てる。
我が父よ。自ら尊き命を絶つことをお許し下さい。
だが、神は彼の乞いを許さなかった。
夜のチャイナタウンのネオンを階下に望む窓に小さな穴が空き、ジェリコが弾き飛ばされた。
それを待っていたかのように、夢魔に押さえつけられた。
右手を背中に捻られれば、抵抗する気力もなくなる。
「Hey京香! 奴を確保したぜ。こいつ、あたいの事を夢魔だと言いやがる。どうしたらいい?」
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