世界一大好きな君へ。(喜金)

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「ふぅ…」 喜三太は、庄左ヱ門と伊助の夫婦喧嘩(同居人との戦い)が長引きそうだったので、自室に戻っていた。 隣では、先ほどから金吾が剣の手入れをしている。ものすごく一生懸命だ。 「ねぇ、そんなに剣が好き?」 「うん、大好き」 「そっか…」 喜三太は、ため息を一つついた。 金吾は、不思議そうにこちらを見ている。 「どうかしたの?」 金吾が声をかけると、体を震わせ、部屋の隅へと行ってしまった。 「え、えっとね…実は」 と、いいかけた喜三太の口が閉じる。 ―やめておいた方がいいかもね― そして、庄左ヱ門のあの言葉が脳裏を行き交っている。 「なんでもない…」 目線をナメ壺に移す。 「…うそ」 「へ?」 「絶対うそだね。喜三太、うそついてるでしょ」 図星を撃たれた喜三太は、目をそらす。 だが、もう近くには金吾の顔があった。 「ねぇ、教えてよ、喜三太」 もうこうなってしまうと、金吾はしつこく迫ってくるのを喜三太は知っている。 「わ、笑わない?」 「うん」 「失神しない?」 「えっ…うん」 「じゃあ、話す」 喜三太はそう言って、ナメ壺を床においた。 「僕、好きな人ができたんだ」 「え、喜三太が!?町の子!?それともくの一の!?」 金吾は興奮しているようすだ。 なんせ、同室で仲のいい喜三太に好きな人ができたのだ。 「…また、いずれわかるよ」 喜三太はそう言い残すと、襖を開け、長屋を後にした。
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