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私は壁に押し付けられて、目の前には男が立ち塞がる。
「ガキじゃないって...どの辺り?...何様かって...俺はオトナの男だけど?」
低い声で私の耳元で言う。
何、この展開。
どう考えてもあり得ない。
コイツ、どうかしてるよ。
男の視線は私の胸元を見つめている...ような気がした。
自分の会社の敷地内で、よくもこんな大胆なことをするよな。
「叫びますよ」
「叫んでみたら?」
流し目で私を見る。
私は負けまいと、睨み付ける。
「...誰も来ないし...」
うそ...。
男は余裕な顔して、ニヤリと笑う。
そうかと思ったら鋭い視線で私を突き刺した。
抵抗はできない。
私の両腕は、男の手の中にあるから。
気が付くと、男の口唇は私の首筋を軽くなぞっていた。
まさか、私はこんな年齢で犯されるの?
男は全然理性を失ってはいない。
息も荒くない。
興奮してる様子もない。
むしろ、冷静過ぎて余計に怖く感じた。
脅しじゃない。
本気なの?
私は生ツバを呑み込んだ。
私は男と視線がぶつかった。
すると、顔を近付けてきたからキスされるのかと思った途端に、
「ここは俺の会社で、おまえは部外者。後先考えない行動して、本当に危ない目に合う前に、さっさと帰れ。いいな?」
えっ?
な、何よ!コイツ!
このバカ!
「ヘンタイ!」
私は恥ずかしくなって叫んで逃げた。
走って、猛ダッシュで自転車をこいで帰った。
キレられて、犯されそうになったと思ったら急に説教されて、何で私がこんな目に合わなきゃならないのか。
悔しさと怒りが込み上げる。
でも、あんなことどうしてするんだろう。
衝動的にしては、凄く落ち着いていた。
きっと、私と同じ30代だよね。
独身者なのかな...女性に餓えている孤独な男?
あんなの、当たり前じゃない。
どうしたって、あんな毒舌野郎は独身でしょ。
優しさの欠片もない。
あんな感じの悪い男が、モテるわけがない。
顔は...。
確かに顔は、きれいな顔してカッコイイけど...。
背は...。
確かに背も高くて、痩せててルックスは悪くはないけど...。
声も...。
確かに声も、まだ耳に残るくらいに良い声してたけど...。
でも、ダメ!
絶対ダメ!
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