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教室の戸を開けたらそこには信じられない光景が秋田の目に飛び込んだ。
寝坊をしてまだ寝ぼけているのか。
首を3回ほど振り落ち着いてもう一度目を細め教室を見渡す。
しかし、ぼやけてはいるが、その異様な光景は変わらない。
確かにそこには生徒もいるし教卓の前には教師もいる。
しかしなんだかおかしい。
ここは男子高のはずだ。 それなのに、何故か秋田の細めた目には女子たちがうつっていた。
視力の悪い秋田はコンタクトを付けるのを忘れていた。ぼやけておかしく見えるのだと、鞄からメガネを出し震える手で装着する。
しかし、やはり教室はいつもとは違う。
寧ろ、くっきりと見えてしまったことに後悔する。
何故ならそれは、毎日を一緒に過ごしていた男子クラスメイトが女の格好をしていたからだ。
「おい、お前なんだよその格好」
こちらのセリフを、いつも仲良くしている浩哉の口からでてきた。
イケメン浩哉が化粧により美人へ変貌している。いつもと違う彼に秋田の方が恥ずかしくなった。
「お、お前らの方がおかしな格好してるぞ」
「何を言ってるんだ秋田。先生は昨日伝えたはずだろ?今日は女装のする日だと」
化粧が濃くてよく誰か分からないが、特徴的な顎髭を蓄えているのを見る限り、担任であることがわかる。
いつもの、ドスのきいた声に。ゾワリと全身に鳥肌が立った。
「昨日は俺休みだったし」
「俺が直接伝えたろ?」
確かに昨日、浩哉が家に来ていた。
“明日は女装して来いよ。これ、着てこなかったら単位落とされるぞ”
と言って紙袋に入った女子用の制服と桂を渡された。
まさか、あれが、本当のことだとは思うわけもなく今に至る訳だ。
「その紙袋は何?」
もともと可愛い顔をした河井くんは、秋田の右手に持つ紙袋に指をさした。
「え?これは」
紙袋には皆と同じ女子用の制服と桂がはいっている。浩哉に返そうと持ってきたのだ。
「それ、俺が渡した女子用の制服だろ?」
浩哉のその一言に、汗がじわりと滲み出てきた。
「なんだ、秋田、持ってきているなら早く着替えて来なさい。着替えれば今回は遅刻も見逃してあげるから」
そう言って担任は微笑んだ。
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