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「お嬢様、到着いたしました」
「ええ、ありがと」
静かに停止したベンツから降り、わたくしは自宅であるお屋敷へと戻ってきた。
同じ様なベンツが何台も止まっている車庫へ足を付けると、屋敷の入口の方から、和装をした女中が数人こちらに向かってくる。
「お父様は、お部屋にいるかしら?」
「はい。お嬢様のお帰りを自室でお待ちしております」
女中の一人に確認を取り、わたくしは複雑な気分になったわ。
目的が果たせるという想いと、これからお父様に対峙しなければならないという想い。
わたくしは何とも言い難い気持ちのまま、「お父様の部屋に行くわ」と告げ、足早に歩き始めた。
お屋敷の、玄関から一番遠い和室がお父様のお部屋。
わたくしはその手前の襖の前に辿り着き、そこで正座をした。
「お父様。杏花クィン、只今戻りました」
「ああ、入れ」
すぐに襖の奥からお父様の声が聞こえてきたわ。
わたくしは下げていた頭を上げ、正座の体勢のまま襖を開けた。
「失礼致します」
部屋の中は然程広くはなく、数個の棚と机が置かれいているのみ。
そしてその机の置くに、立ったままの和服を着た白髪の男性──お父様が居た。
一見すると優しそうな人相をしているけど、裏では明言はできないようなことを幾つもしている。
それを知っているわたくしは、お父様を視認すると軽く恐怖で震えてしまった。
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