一縷の望みを懸けて

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ジンは何も喋らずに淡々とフィールドのカードを片付ける。 それに対してサキが早速突っかかる。 「約束はちゃんと守ってもらうわよ!」 「デュエルでの決め事は破らん。ティル、紙を寄越せ」 デッキをケースに収めると、ジンは片手をボクに差し出した。 入部届のことだと察したボクは、少し離れた場所に置いている自分の鞄の場所へ慌てて移動しようとする。 「ティル、あるよ」 「あ……。ありがとう、ナノコ」 けどナノコが既に取ってきてくれたらしく、入部届を渡してくれたのでお礼を言う。 それをそのままジンへと差し出す。 「はい。明後日までにくれれば大丈夫だよ」 「把握した」 受け取った入部届を自分の鞄の中にあるクリアファイルに差し込むと、ジンはさっさと部室を出て行ってしまった。 「何よあいつ……もしかして、ティルに負けたのが恥ずかしかったとか?」 サキが一度部室の扉の方を見た後、軽く笑いながらボクに話しかける。 その台詞で、ボクはトドメの攻撃をした時のことを思い出す。 「……」 「ティルくん、どうしたの?」 ボクの様子に真っ先に気付いたのはアイだった。 その声でサキとナノコも、ボクを不思議そうに眺め始めた。 ボクはポツりと思っていたことを口に出してみた。 「さっきのデュエル、きっとジンには手が残っていたと思うんだ」 「え?」 《ビーストアイズ》で《パワーツール》へと攻撃する宣言をした時、ジンは一瞬だけ手札に視線を向けたんだ。 手札誘発を握っていないなら、手札を再確認する理由はない。 「じゃあ、わざと負けたって言うの? あいつがそんなことする風には見えないんだけど」 「そうだね、ボクもそう思うよ」 サキの反論にボクも同意する。 クィンの強要を止めたジンなら確かに、わざと負けるなんていうのはしなさそうに思える。 「きっと、何か理由があるんじゃないかな」 ナノコの呟きを聞いて、ボクも心の中で同意するのだった。
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