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デュエルの話が終わると、次に出てくるのは本来の目的だ。
「どう? 何か、思い出せたかな?」
ナノコがカードたちをケースにしまいながら、顔を覗かせてきた。
──その直後だった。
────『ティル』。
その単語だけが、脳裏に響いてきた。
誰の声なのか、その単語が何を意味するのか、他には何も思い出せなかった。
けれどその単語はボクにはとても馴染みがあった……そんな気がした。
「……ティル。それがボクの名前、なのかな?」
「ティル?」
自分でそう呟くと、それが真実だとより納得できた。
だからナノコの言葉に「少なくとも、そう呼ばれてたと思う」と返してあげる事ができた。
「でもごめん。それ以外は思い出せないみたいだよ」
「そっか……でも無理しないで良いよ。呼び名が思い出せただけ、収穫はあったんだもん」
ナノコに向けて謝ると、ナノコは笑顔で励ましてくれた。
更に手を差し伸べてくれた。
「じゃあ改めて宜しく、だねっ。ティル!」
ボクもそれに笑顔で応えようを手を差し伸べ──
「……あれ」
ふにゅっ、と柔らかい何かを掴んでいた。
「っ!!?」
さっきよりも近くなったナノコの顔が、朱色に染まりきっている。
そこでボクはようやく自分の状況を理解出来た。
……ナノコの差し出した右手を取ろうとした際に、何故か全身の力が抜けてしまい──右手がナノコの年相応に実っている片方の小丘を思いっきり鷲掴みにしてしまったんだ。
「……るの……」
ナノコは唇を噛み締めながら、プルプルと震えている。
この先どうなるのか分かっていたボクは、無駄に抵抗はせずに未だに柔らかいモノに触れている右手に意識を集中させた。
……あぁ、女の子の胸ってスゴく柔らかい。
「ティルのへんたあああああぁぁぁい!!!」
直後、ボクは思いっきり額に重い一撃を喰らい、床に頭を打ち付けて意識を闇へと落としたのだった。
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