日の当たらない場所

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そのあたしの口までも、温かい手がふさいだ。さらにパニックになるあたし。 「おい、静かにしろってば。」 彼の制止に従うことなんてできず、かえって暴れる。その人は困ったように唸った。 そして、あたしを後ろから抱きしめた。 突然のことで思考が止まるあたしに、彼は優しく話しかける。 「落ち着いて、俺は君になにもしないから。」 身内ではない人から久しぶりにかけられた優しい言葉。体の力がどんどん抜けていくのがわかる。 「……もう離してもいいよ。逃げないから。」 やっと絞り出した言葉に彼は従ってくれた。それを見て、解放されたら走って逃げるという思いも消えていく。 この人を、少しだけ信じてみよう……そう思って彼の顔を見た。
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