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「――そういう訳だ。……協力してほしい。屍鬼を捕まえたいんだ」
昨夜の事を話し終えた桜鬼は、諌早に向き直って言葉を掛けた。
「……分かった。私に出来る事なら協力しよう」
「有難う」
諌早の答えに桜鬼がホッとしたように感謝を口にすると、諌早は一瞬目を見開き、そして笑いだした。
「――何だ?」
諌早の突然の笑いに、桜鬼は訝しんで表情を引き締める。
「いや、済まない。まさか鬼が礼を言うとは思わなかったから」
「お前達人間は何でも思い込みだけで生きているんだな。鬼は凶暴で残酷。そう勝手に思い決め込んで、討伐と称して山に入り仲間を殺していく」
桜鬼の語られる口調に、人間に対する軽蔑と恨みの念が籠っているのを、諌早はそれとなく感じ取った。
「済まない」
先ほどとは打って変わって、本心で詫びた諌早に桜鬼は張り詰めた気配を解いて表情に笑みを浮かべる。
「お前は変わった人間だな。……何かあったら昨日会ったあの場所に、この布を巻き付けて置いてくれ。次の夜にはそこでお前を待つ」
桜鬼は髪を束ねていた布を解いて諌早に手渡した。
「この布は……」
「お前が昨日私にくれた布だ」
フッと笑い、桜鬼は用が済んだとばかりに諌早に背を向けて歩き出していた。
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