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 諌早が宿舎に戻ると頃合良く長官の橘忠平(ただひら)が、帝からの勅命を伝えに検非違使を集めていた。 「諌早、帰って来たのか」  指定された詰所に行くと、克正が気付いて近寄って来る。 「今戻った所なんだ。それにしても全員を集めて一体……」  所狭し出揃う仲間の喧騒の間をぬって克正に返事を返した直後、橘が一人の男性を引き連れて現れた。 「皆、御苦労」  開口一番、集まった検非違使達を労う言葉を掛けて、橘は静まり返る部下を見回した。 「非番の者も御苦労」  橘が本題に入る前の言葉を語ると、克正が隣に座る諌早に小声で話しかけて来た。 「長官の隣にいる男、陰陽師の叶雅守(まさもり)だ」 「あれが先代から推薦を受けたという……? 若いな」  二人がそんなやり取りをしていると、その直ぐ後ろからわざとらしい咳払いが二人の注意を引き付けた。 「俊孝(としたか)……」  克正がうんざりしたようにその相手の名前を呼ぶ。 「静かにしてくれないか」  気が強そうに、強情な口調で俊孝は二人を睨み付ける。  諌早や克正と同期で検非違使になり、何かにつけて諌早や克正に突っかかってくる人物だ。
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