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「――気に入らない」
俊孝はそう呟かずにはいられなかった。
何が悪い。という訳では無い。ただ諌早の立ち居振る舞いが一々目について、腹立たしい思いにさせられる。
夜中の警備の最中、事あるごとに昼間の諌早の様子を思い出しては苛々としてくる。
「――……そんなに嫌な者なら、いっそのこと殺してしまえ」
「――! 何者だっ!?」
気付けば一緒にいた検非違使の姿がない。代わりに、目の前に息をするのも忘れるほどに美しく、灰色の髪の間から角を生やした白い着物を着流す見知らぬ男が立っていた。
「鬼か!」
「……そうだ。俺がお前達人間を食らう鬼、屍鬼だ」
身構えた俊孝に動じもせずに、屍鬼は不敵な笑みで佇んでいた。
「お前が気にする男――諌早と言ったか。奴は都にいるもう一人の鬼と手を組んで都を混乱させている張本人だぞ」
「何だと……? 諌早が……?」
「気がつかなかったのか? あいつこそ善人そうな面構えで人々を恐怖に陥れている人間だというのに」
「あいつが……」
俊孝はすっかり屍鬼の話術に嵌り、警戒心も薄れた様子で呆然と立ち尽くしてしまった。
「お前に協力してやろう。諌早の本性を暴き、鬼を捕まえ、そしてお前は手柄を上げる」
屍鬼の誘惑に声を飲み込んだ俊孝に、屍鬼は畳み掛けるようにして、もう一度囁くようにして声を掛ける。
「……俺に従うといい。お前を手助けしてやろう」
二度目の言葉で俊孝が頷くまで、さほど時間はかからなかった。
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