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「今宵の月は気味が悪いな」 「あぁ、嫌に黄色い……見様によっては赤にすら見える」  その月明かりに照らされる路を、二人の検非違使が巡回していた。  同期に衛門府に入った幼馴染みで、一人は諫早(いさはや)。  穏やかな笑みを絶やさない人物ながら、弓の名手として検非違使の中で名を上げられる人物だった。  そしてその友人の克正(かつまさ)。 「こういう夜にこそ、鬼は出るんだろうな」 「……なんだ、諫早。お前怖いのか?」  ぼそりと呟いた諫早の言葉に、克正はからかうようにして笑った。  その直後――  さほど離れていない前の方向から物が倒れる大きな音と、  警戒したように激しく吠える野犬の鳴き声とが、静まり返っていた闇夜に響き渡った。 「何事だ!?」  瞬時、二人の表情が引き締まり、次いで物音がした方角に向かって走り出す。  走り着いた所で二人が目にしたのは、さきほど吠えていただろう野犬が、調度心臓にあたる部分の肉を抉られ、残酷にも殺された姿だった。 「さっきの犬だな」  息を切らせたまま、克正が足下の犬に屈みこんで様子を探る。 「まだ近くに居るかもしれない。周囲を見てこよう」 「おいっ、諫早! 単独行動は危険だ!」  確認もそこそこに走りだした諫早の背後から、克正の慌てた制止の言葉が響いた。
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