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袋小路となる路に諫早が駆け込んだ時、そこに蹲っている人物を見つけ、諫早は咄嗟に弓矢を構える。
「何者だ」
荒い息を抑え、諫早は落ち着きを装って声を掛ける。
……しかしその人間からの返事はない。
「こんな夜中に出歩く事は禁じられているはずだ」
そう続けて言葉を止め、諫早は相手の様子を探った。
夜目に映える白い着物を着こんだ人間は、耳を澄ますとどうやら必死に声を抑えているようだ。
右肩を押さえているが、そこからじんわりと赤い血が滲み出ていて、諫早は相手が怪我をしていると気付くなり、構えていた弓を下ろして近づいていった。
「怪我をしているようだな、何者かに襲われたのか?」
屈みこんで相手の方へ手を伸ばした時、
「触るなっ!」
そう叫んで相手が顔を上げた。
「――っ!!」
諫早の口から、声にならない空気の悲鳴が上がる。
顔を上げた人間は、黒髪の間から二本の角が生え、そして額にも三本目の角を生やした女――鬼だった。
「触るなっ、お前を食うぞ」
目を見開いて硬直する諫早に、鬼はそんな威嚇の言葉を投げつける。
しかし、その表情は苦痛に歪み、傷が酷い事を物語っていた。
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