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 翌日、非番の諫早は日用品の買い物に、久し振りに京の都を散策していた。  大内裏を出ると、庶民の暮らしぶりが空気を騒がす。  走り回る子供達、互いに声を掛け合う近所の人々。買い物客を誘う呼び子の声、牛車が通る音とが、夜とは打って変わって昼間の京を、明るく活気に溢れさせている。 「諫早」  物見の為に足を止めた諫早の背後から、女の人の声で名前が呼ばれ、諫早は振り返った。  名を呼んだらしい人物は、数歩先に立っている。  普通の娘のような服装で、角を隠した昨夜の鬼が立っていた。 「どうした? まさか夜だけにしか出歩かないとでも思っていたのか?」  驚いて絶句している諫早に、鬼は面白そうに笑って声を掛ける。  昨夜は暗闇の中だったが、こうして明るい所で向かう鬼は、色が白く整った美しい表情をしていた。  黒々とした漆黒の黒髪に、鋭い眼差しを見せる切れ目の瞳、嫌に紅い小さな唇。  これほどの容姿をしながら周囲の人間達の注意を引かないのが不思議な程だった。 「そのまさかだ。――傷の具合は?」  先を歩き出した鬼の後を追って、諫早は追いつくと肩を並べて話を始める。
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