護るために

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澤口は荒い呼吸をしながらうつぶせになっていた。 その細い身体には薄いシーツが巻き付けてある。 彼の虚ろな瞳には既に服を着替え始めている男が映っていた。 「今夜は楽しかったですよ。 またお願いします」 「ま、た…?」 澤口が絶望的な表情で男の言葉を反芻する。 男はニヤリと笑い封筒を澤口の前に翳した。 「私は『公表しない』と言ったんですよ? 『写真を渡す』とは一言も言ってませんよ」 男の口車に乗せられていた事に今さら気付き、澤口の表情が徐々に曇っていく。 「じゃ、失礼します」 男が部屋を出ていく足音や閉められるドアの音を澤口はどこか遠くに聞いていた。
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