プロローグ

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右から左へ受け流しながら、適当に自己紹介を聞いていると、俺の順番が回ってきてしまった。 一度、周りには分からないような溜め息をついてから立ち上がる。 「初めまして、桐達静といいます。よろしくお願いします」 最低限の自己紹介で俺は席に座った。クラス内では俺はつまらないタイプの人間なんだ、と印象づけられた瞬間だろう。 別にいいさ。 正直なところ、目立つことなく平和に過ごせれば満足なんだ。友達なんて少しいれば構わないのだ。 その後も自己紹介は続いた。上手く面白いことを言って、クラス内に笑いを起こす奴もいた。 こういうタイプの生徒が、クラスの中心になったりするんだろうが、俺には関係のないことではないかもしれないが、関係ないと言わせてほしい。 自己紹介も終盤にさしかかった時のこと。次に自己紹介をしようと立ち上がった女生徒の姿を何となく見てみた。 長くツヤのある黒髪、丸い目に白い肌。なんというか、清楚という言葉から連想される女の子って感じがする。 まあ、もちろんそれは俺が思っているだけで、他の人がどう思うかは知らない。ていうか興味ない。 「綾瀬川姫乃といいます──」 少し無愛想な感じで、いやしかし決して人に悪い印象を与えないような自己紹介だった。 緊張していたのかもしれないが、もちろん俺の知ったこっちゃない。 俺はこの時にはまだ知らなかった。というより覚えていなかったというか思い出せていなかったというか、とにかく分からなかったのだ。 まさか、俺は以前に綾瀬川姫乃という女の子と知り合っていたこと。 何より、そのせいで俺の平和な日常が崩れてしまうことを。
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