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ヤチヨが転校してきて一週間が経っていた。
その間もクラスメイトとヤチヨの溝は深まるばかりで既にクラスには好んで話しかけようとするものすらいなくなってしまった。
「あの子、ヤチヨって子、今じゃ誰も気にかけようとしなくなったな」
「あっ、いたんだ、アユ 」
「ひでぇな、おい!
俺までハブられ者かよ!」
「かっか。
アユ殿はいじられ役が板についてますな」
コウ、アユム、ユカナのいつもの三人が揃い踏みで、いつものように屋上の隅で昼食をとっていた。
「それにしても、ヤチヨ殿もあれほど無愛想では近寄ってくれる人すら遠ざけている、損な性格ですな」
「損かどうかは人それぞれだけど、人付き合いは苦手な子だね」
ユカナの言葉にコウが返する。
「話題の主が来たみたい」
キィっという扉の開く音と一緒に屋上へ出てきたのは、アユムの言葉通り、ヤチヨ本人だった。
手にはピンクのお弁当鞄を持ち、辺りをキョロキョロしている。
「昼飯を食べる場所でも探しに来たのか?」
アユムの言葉通り、ヤチヨは辺りを見渡し、誰もいないと思ったのか、そのままグラウンドの見える位置まで移動すると静かに腰を下ろし、お弁当を広げた。
グラウンドでは昼休みを満喫している生徒等が、思い思いに野球やサッカーをやっていた。
「こっちには気づいてないようですな」
ユカナは、コウの唐揚げをさっと盗み食いながら視線はヤチヨに向けている。
「こら…人の楽しみ取るんじゃない。
あの子がここに来たのも何かの縁。
一緒に食べるよう誘ってみるよ。
どんな人か興味はあったんだ」
「あぁ、呼んでみなよ。
俺は反対じゃないし、ユカナも別に、だろ?」
「その通り」
グラウンドの生徒等を見ながら、一人パクつくヤチヨの背後に静かに忍び寄り、
「ヤ・チ・ヨ・さん!」
コウの言葉にビクッと反応したヤチヨの箸から、その瞬間まで掴んでいた卵焼きがコロッと落ち、そして屋上の床に転がり、止まった。
「えっ…」
自分の手元を見、次いで転がり落ちた卵焼き、そしてそうした原因の犯人、背後に立つコウへと視線を移した。
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