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――20XX年 4月3日。午後4時05分。
今年も公園の桜は、青空のもと薄紅色の綺麗な花を咲かせている。見頃にはまだ少々早いが、恐らくこの桜を見に来たであろう人の姿もちらほら見られる。
数歩手前を歩く茜は、あの頃と同じ太陽のような笑顔。
「そういえばさ――」
不意に茜が、歩む速度を緩め切り出した。
「んっ?」
間の抜けた返答を合図に、茜はくるりと振り返る。
「瞬矢言ったよね?」
これまで彼女にかけた言葉なら、良し悪しを含め、沢山ある。さて、なんのことかと視線を宙に游がせしばし思考を巡らせていると、
「ほら! 瞬矢が私を助けてくれたあの時……」
当時のいくつかの記憶が呼び起こされ、途端に耳の辺りまで熱を帯びるのが分かった。
「さぁ?」
だがすぐさまそっぽを向き、忘れたとばかりに素っ惚ける。鼻先にかかる黒髪が、わずかに春の気候を孕んだ柔らかな風にそよぐ。
本当は覚えていた。否――忘れようはずがない、あの時自身が彼女に向けて告げた想いを。
「もっぺん、言ってよ」
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