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茜はあからさまな照れ隠しと思える瞬矢の反応を、見透かしたようにくすくすと笑いながら身を屈め覗き込み、そんな言葉を投げかけてきた。
2人の間を桜の花びらがひらりと横切り、一瞬彼女の笑顔を視界から隠す。その光景に瞬矢は、はっとし目を見張る。
頬を染め、にこりとはにかんだその笑顔を、向かって左斜め後方より夕日が照らした。
右手でくしゃりと頭を押さえ、首を大きく右に振り地面に視線を逸らす。
「ばっ……こんな人前で言えるか!」
仮にも公衆の面前。ましてや3メートル以上も離れたこの距離で『それ』を言えば、少なからず注目を集めること間違いなしである。
茜は下唇に右手の人差し指を軽く当てながらしばし考える様子を見せ、そして地を蹴り、一転して開いていた2人の距離を詰める。
ぶつかりそうになり身構えるが栗色の髪を揺らし、その寸でのところでぴたりと止まった。
「これなら、誰にも聞かれないでしょ?」
立ち止まった拍子に一旦俯き、すぐさま上目遣いでこちらを見て笑う茜に瞬矢は目を伏せ、敵わないとばかりに小さく笑みを漏らし、そして腹を括るのだった。
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