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湛えた微笑は、やがて悪戯な笑みへ。揺れる瞳は互いの瞳の奥に映る自分を探し、2人の距離は次第に近まる。
栗色の茜の髪を鋤くように、頭に手を当てながらそっと体を抱き寄せ、再び唇を重ねようとしたその時――。
携帯電話の呼び出し音がそれを阻む。まるで示し合わせたかのような着信音に、瞬矢たちは再び寄せ合っていた体を離す。
「刹那から……かもよ?」
ズボンのポケットの中で鳴り続ける携帯を手に取り、発信者を確認し眉をひそめる。通話ボタンを押すと、
『――やぁ、兄さん』
通話口の向こう側から聞こえてきたのは、自分よりも若干高く、けれどもどこか深い響きのある声の持ち主だった。
「なんだ、刹那……何か用か?」
折角のところを邪魔されたという不満げな意思を露にしながらも、用件を訊ねる。
『――いや、特別用はないよ。……もしかして、邪魔した?』
通話口の向こうで、刹那がくすくすと笑う。
「お前さ、絶対わざとだろ?」
耳に当てた携帯に向かい皮肉めいた台詞を放つも、口元には笑みが溢れている。2人の他愛ないやり取りに、思わず茜も両手で口を覆い失笑を隠す。
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