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そう。2年前、一向に意識が戻る気配もなく昏々と眠り続けていた刹那は、丁度瞬矢が意識を取り戻して1ヶ月余りの後、目を覚ましたのだ。
「つかお前、今どこにいるんだ?」
刹那は電話口の向こうでくすりと笑い、少し間を置き答える。遠くその背後からは、ひゅう、と風の鳴く音が聞こえた。
「――はぁ!? なんだそれ?」
刹那の返答に、瞬矢は今にも噛みつかんばかりに声を荒らげる。
『――あ、そろそろ切らないと。またね、兄さん』
「……って、おい! ちょっ……!」
だが瞬矢の静止も虚しく通話は耳元で機械的な音を上げ、ぷつりと切れた。
「……切りやがった」
一定のリズムで終話音が聞こえる携帯を耳から離し、通話終了となった画面を怪訝な表情で見ながら呟く瞬矢。
右斜め隣で、一部始終を聞いていた茜がひょいと覗き込む。
「刹那、どこにいるって?」
茜が訊ね、瞬矢は終話ボタンを押しもとの場所に携帯を仕舞いながらひとつ溜め息をつき答える。
「さぁな。ただ……」
一旦言葉を途切れさせ、茜を見やり続けた。
「『少し寒いけど、凄く景観のいいところ』って言ってたな」
それがどこなのか分からないが、少なくとも元気でいることが分かった。ならば、それでいい。
瞬矢はそう思うのだった。
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