#.33 日本へ……

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 2  午後7時35分。  再び、ネッカー渓谷の山間い――古城の地下。  一際広い部屋へと続く真っ白く明るいトンネルのような通路を歩きながら、リンは1人思考に(ふけ)る。 『本気にならないで……』  あの時彼に発した台詞は、同時に自身に向けられたものでもあった。あのままいたら、目的も忘れ本気になってしまう。  故に発したそれは、自ずから課した自制心。  きっと、似ていたのだろう。リンは今まで感じたことのない心の琴線に触れ、それが何かを悟り、わずかばかりの動揺を滲ませる。 (なんで……なんで、よりによって……!)  しかし彼は彼女にとっても敵対関係であり、憎しみの対象。そう、(かたき)でしかないはずなのだ。  明るい通路を抜けるとこれまた真っ白な実験用の台以外何もない場所が広がる。そこは、S‐145――つまるところ咲羅の人格が形成された場所だ。  視界の先に、白衣を纏い薄く笑みを湛えるハロルドが映る。  気持ちに整理のつかない今は、誰とも関わっていたくなく、一瞥をくれ通り過ぎようとした。 「おかえり」  だがどうやら簡単に放してはくれないらしい。笑みを湛えたまま出迎えの言葉で絡め取るハロルド。  
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