それ以上、踏み込んで来るなよ

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キーンコーンカーンコーン 「さよーなら」 あの日から毎日、わたしと柏原は一緒に帰っていた。 だからといって仲良くなったわけでもなくて、わたしが一方的に喋ってる感じ。 「昨日はご飯、食べた?」 「食ってねー」 「だめだよ! 芸能人は忙しいから体調不良で休みます、っていうのが通用しないよ?」 「そんなこと、俺が一番わかってる」 たしかに、それは当たってるかも。 だからなにも反論できないし…。 「今日も仕事?」 「そうだけど」 「じゃあ今日こそ、わたしが夕飯作りに行く」 「はぁ?」 柏原にはお母さんが家にいないから、わたしができることをしたかった。 美苑にもよくおせっかいだ、って言われるし。 わたしは得意気な顔をして笑った。 「はい」 右手を差し出すと「意味わかんない」と困った顔をした柏原。 「なに」 「鍵だよっ! どうやって入ればいいわけ?」 「おまえさ、よく勝手に話進めるよな」 「いいから!」 ほれほれ、と右手をさらに前に出す。 「はぁ、マジで物とか盗んだら殺すから」 「まだ死にたくないもん、大丈夫!」 にっこり笑うと柏原は仕方なくそっと右手に鍵を乗せた。 「ありがと。 夕飯、楽しみにしてて」 柏原はまたうざったそうにしながら駅の方向へ歩いて行った。 .
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