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虫や蛙がやかましく鳴く夜の森の中。
人工の光の届かないここでは、辺りを照らす光源と言えば、空に浮かぶ満月と星明かりだけだった。
「ほら、速く来いよ」
千鳥足で前を歩ていた、さっき飲み屋で知り合ったばかりの男が、振り返り私を急かす。
目の前に差し伸べられた男の手。この手の意味を、私は知っている。
この手には、足下も覚束ない、暗い獣道を歩く私の身を案じる優しさなど、けっして無いのだと。
「そんなに急がなくも、まだ夜は長いんだし、私も逃げやしないわよ?」
私は苦笑まじりに答え、薄く笑みを浮かべている男の手を掴んだ。
気持ち悪い……
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