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春の田園に橙色がかかる夕方。
道はずーっと先まで両脇を田んぼに囲まれた田の間が伸びている。
道も舗装された道ではなく砂利道。
俺はそんな所に一人ぽつんと待ちぼうけを食らわされたかのように立ち尽くしていた。
自分でも何故こんな所にいるのか理解が出来なかった。
記憶にも無い、来た事すらない田舎道。
360度見渡しても有るのは山、山、山。
時折、自分の存在を主張してるかのように電波搭が頭を覗かせている。
梅雨も近いと言うのに吹く風が冷たく感じた。
「何で俺こんな所にいるんだろ」
別に呟くつもりも無かったのに自然と口から漏れる。
それでもと少し歩いてみるが、景色も全く代わり映えがしない。
薄い雲がかかった橙色の空を何気なく見上げてみる。
やっぱりこんな所来た憶えは無かった。
はぁ、と溜息を吐く。そして視線を上から前へ向けると。
何処までも続く砂利道だけの筈の眼前に、いつの間にか希の腰程の背丈の女の子が立っているではないか。
白を基調とした浴衣を身に纏った女の子は、希に向かってにこりと微笑むと。
バイバイと言わんばかりに手を振って踵を返して、砂利道の先へ走っていく。
「ねぇ!キミっ!」
何処かで見たような風貌。
女の子は希の声が届いていないのか、振り返る事無くどんどん離れていく。
「待ってくれっ!」
精一杯に叫んで希は手を伸ばした――――――――
――――――「ひゃっ!」
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