序章――英雄の末裔

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遥か1万イルヤ(=1万年)前。人々と龍との間で決戦があった。 その決戦の発端は契約を結び、人間と和平状態であった筈の龍達が突如暴走、人間を駆逐してきた事による契約破棄。 この戦役は人間の戦士『ヴァルヘイム・アブソリュート』が、単身龍族の拠点に乗り込み、龍王と呼ばれた伝説の龍『マーズフリード』を討ち取ったことにより終息を迎えた―― この戦役はお伽噺になったり、吟遊詩人に吟われたり……色んな場所で耳にする。 今や小さい子供から老人まで知らない人は居ない、かなりの知名度を誇る話だ。 風の月、2週目の光の曜の昼。 滅龍戦役のころから残るほのかに暖かみのあるレンガ造りの街並みの通りに、涼やかな優しい風が吹く。 吟遊詩人が先程のお伽噺を民衆に吟っているのをチラリと見て、銀髪の青年が赤い瞳を伏せながら、冷めた表情で溜め息を吐いた。 「下らないな」 そう。この話はある特定の人達にとっては『下らない』話だ。 こんな伝説があったとしても、お伽噺に出てくる英雄は出てこないし、その話で今現在の『ドラゴンとの戦争』が終結する訳ではない。 「お伽噺を聞いて何を思ったのか軽い気持ちで【滅龍者】に志願して死んでいく新兵が多すぎだ……まったく‥そんな簡単にいくかよ」 先程の青年がため息つき、『やれやれ』と額に手を当てる。 彼の名はハーヴィス・アブソリュート。 先程彼が下らないと馬鹿にしたお伽噺の英雄、「ヴァルヘイム・アブソリュート」の末裔である。 人々は彼を英雄の再来と囃し立てる。 が、彼はそんなことには無関心で、ただ龍を殲滅させる、滅龍者の鏡となっている。 その姿は老若男女問わず憧れの対象だが、やはり彼はそんなことには無関心であった。
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