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「……ふぅ」
少しだけきついかな、なんて。
自分を誤魔化すように溜め息をついた。
札を持ち歩かないと痛い目にあう。
それはほんの少し前、怜人や亜美と出会った森。魔狼と要と戦った時に習ったばかりというのに。
「……ずっとこれだよ」
雅は天音の吐いた槍のような突風をかわすと、ぐっと手を伸ばした。
途端に雅の全身に赤い古代文字が浮かび、まるで生物のように動き手の平へ収集される。
淡い光を漏らしながら現れたのは、紫に金の細い刺繍つきの扇。
煌びやかな蝶の装飾がついているそれは、かつての要戦時にも使用したものだ。
これは雅が作ったものではなく、かなり昔に譲り受けたものだ。
いや、譲り受けた訳ではない。
むしろ逆。実際は昔雅が対戦した者から、奪ったといった方が正しい。
その者は契約者ではなかった。
しかし過去にかなり有力な陰陽術が力を封じ込めたという、この扇を使って陰陽術を発動させていた。
「胡散臭いけど罠とか呪術はかかってないし……ま、使えるものは使わないとね」
『なぁに、今の。独り言なの、雅くん』
地の底から響くような、それでいて可憐な少女のものを連想させる天音の声。
「ええ、まあ」
『まさか、君ともあろう子が、願掛けとか、じゃ、ないわよね』
「いえ、経費削減の話ですよ。今回はただ単に、使用せざるを得ないだけですけど」
扇をパッと大仰に開き、苦笑を漏らす雅。
それに巨体をうねらせて顔を横に傾ける天音は、もしかして首を傾げているのだろうか。
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