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辛くないかい。辛いなら、ムリをしなくてもいいんだよ、とおばさんは優しく少女に言いました。
しかし少女は首を振ります。あの少年はわたしを信じてくれたから、わたしも彼を信じて待ちます、としっかりとした声でおばさんに答えました。
その時、少女の家の扉が開きました。ボロボロの姿になった少年が、帰って来たのです。その右手には、鉱石が握られていました。
少女が、音だけを頼りに少年のところへ駆け寄ります。
少年はさまよう少女の手をつかみ、鉱石を握らせました。
採って来たよ、と少年は疲れを感じさせない明るい声で少女に言いました。少女は何度もうなずいて、少年の手と鉱石を握り返します。
ありがとう、ぜったい描きあげるから、と少女は涙を流しながら言いました。
それから、少女と少年は協力して緑の絵の具を作ります。少年が鉱石を砕いて粉にして、それを少女が煮たニカワと混ぜて、緑の絵の具ができあがりました。
少女はできたての絵の具をパレットに取って、キャンパスに向かいます。ひとつ、ふたつとゆっくり息を吸って、少女は護り樹を思い浮かべます。少年が鉱石を採りに行っている間に、護り樹と触れあった毎日で得たイメージを筆に取って、一枚一枚ていねいに葉を描いていきます。
そして少女は、護り樹の絵を完成させました。
それは本物と変わらないくらいに、大きくて立派で、そして輝いていました。
おしまい
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