うるさくない少女達の遁走曲(fuga)

2/7
49人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
    ●秋月吏世 「私は国語教師が好きではない。冬の国語教師は私の癇に障る。 私は鉛筆で国語教師を殺める空想に耽っている……鋭く削った蜻蛉鉛筆は国語教師の喉を突き刺し眼球を抉るのにひどく適している……真冬の閉塞したこの教室に起こる一大sensation.しかし私の空想劇中で他の生徒は一向に騒ぎ立てることなく、鮮血に染まる国語教師を無視するだろう……  空想劇において国語教師を殺めることに私は悦楽を感じない。むしろ不当な義務を課せられているような気分だし、できれば彼を蜻蛉鉛筆で突き殺したくないのだが。私は入学以来この国語教師を三角定規やコンパスで幾度となく血祭りにした。その理由については解らない……  国語教師は絶対に気づいていない。自分自身が、真面目に授業を受けている様子の、この一生徒の空想中で何度も惨殺されていることを……  伏し目がちで、冷たい指をしているこの国語教師は必要以上に喋ることを好まない。低い声で囁くように、生徒達の頭の中へ知識を、静かに叩き込んでいる。私は鉛筆の芯と国語教師の顔とを見比べて嘆息する。私の空想する頭には悪徳が潜んでいる……  私の空想劇は奇妙な事に毎回同一の終幕を迎えるのであった、それは惨殺された国語教師に私が接吻するというものであって、それは教壇の上で厳かに行われる……飛散した血飛沫が彩る教室内は静寂に包まれており、見れば幾人かの生徒は頬杖をついて睡っているのだった、……そして、国語教師の唇はひどく冷たい……」    
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!