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フェロメナは12歳から15歳までの僅かな期間に300個以上の【卵細工】を制作したと言われているが、その殆どは破壊されてしまったため、現存するのはその十分の一に満たない。
その中で特に傑作と称されるものをいくつか挙げると、まず世界卵がある。Sekai-ranこれは小さな覗き穴を持つ卵で、その穴を覗くと、空中に浮かぶ庭園を見ることができる。庭園には昼と夜とがあり、四季があり、それに応じた気候の変化もあるという驚くべき精巧さであって、それが掌に収まる卵の内部のことであるとは信じ難い。動力源は不明である。
次にMelody from the egg.これは蓄音機の一種であり、この卵をゆっくりと傾けると、小さな歌声が響くというもの。その歌声というのが制作者フェロメナの肉声なのだと伝えられている。
この二個の卵細工はいずれも技術的な面において全く解明されておらず、一体フェロメナ嬢がどのような手法でこの二作品を制作したのか、現在も研究がすすめられているのだが――現代に至るまでにフェロメナ嬢の卵細工がほぼ壊され、現存するものは僅か20個余りというその理由は、まさにこの卵細工の構造そのものに起因するのであった。即ち、卵内部がどうなっているのか、それを知りたいがために所有者は次々とその貴重な作品群を壊してしまうのである。で、卵細工を割ってみると、中から出てくるのはつまらない歯車やネジ、発条、色紙、木片等々であって、先刻まで掌に収まっていた夢は呆気なく消失する。一度壊してしまうと、それこそ王様の馬でも家来でも元に戻すことはできない。
このようにフェロメナの制作した卵型の幻想は幾度となく壊され続けてきた。
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