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面倒くさい。
いつもなら、その一言で片付けて電話には基本出ないのだが、今回は電話に出ないといけない、という気持ちが心に生まれていて、なぜか変な胸騒ぎがしていた。
リビングに行くと、既に弟が受話器を取っていたが、俺を見るとすぐに渡してくれた。
相手は誰だった?と聞いてみたが弟は首をかしげて、わからないと答える。
話し相手の話が理解できなかったのだろうか。
俺が受話器の向こう側の人に話しかけると、相手は自分の身分を話してくれた。
父の同僚で、確かサワグチかサワダという名前だった気がする。
とにかく俺は、その時に父が『自殺』を図ったという事を知った。
会社の窓からの飛び降り自殺。
遺書は父のデスクの引き出しから何通も出てきた。
『恭子に会いたい』
大昔に死んだ母の名前である。遺書の全てがこの内容だった。
俺は初めそれを見た時、確かに悲しかったが、それとは別になんとも気持ち悪い感情を覚えていた。
後で気づいたのだが、それは〈怒り〉であった。
自殺した父に対しての〈怒り〉。
無責任すぎるだろう。残された俺たちの事を考えたのか。
今、葬式でくだらないお経を聞きながら、俺は無意識に強く自らの手を握りしめていた。
葬式が終わり式場を出ると、父の弟、叔父夫婦が待っていた。
叔父夫婦は結婚してもう10年が経過していたが、いまだに子宝に恵まれていない家庭だった。
このままいくと、俺達はこの二人の家に預けられるのだろう。養子として。
そんな事を思いながら、俺と弟は白い軽四の後部席に乗せられた。
俺は人より車酔いに弱いタイプなので、叔父に頼んで窓を開けてもらった。
車が発進して涼しい夏の風が顔にかかり、気持ちがよい。
ふと振り向くとどんどん葬式場が遠ざかり小さくなっていく。
「さよなら」
小さく呟き、俺は目をつぶった。
さよなら父さん。
――――――――KK
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