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2-4
「アルスという姓の方は多いから、もし長とお呼びするのに抵抗があるなら、お名前にしたほうがいいんじゃないかしら」
血よりも赤く、でもやさしいアルスさまの瞳。
怒りや悲しみをのせないその落ちついたまなざしに見つめられたら、名前どころか、次の言葉さえもぜんぶ心の中に沈んでしまう。
不思議そうな顔をしたアルスさまに、どうかしたのか、なんて言われたら、逆にどんなに沈めても浮かんでくるのは、こちらの感情を告げる言葉だけになりそうで。
「だいじょうぶ? 顔、まっかよ」
「そそっ、そうですか!?」
無自覚の頬に手をあてた。
「それにしても、よく降るわね」
話題をかえて落ち着かせようとしてくれたのか、女性が窓の外を見てそう言った。
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