プロローグ

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1-1    プロローグ  朝から降りつづく雨が、夕刻をすぎてから激しさを増す。短い前髪から滴がぼたぼたと落ちはじめ、フェシルミア・アルスは濡れた額をぬぐった。  雨が降ると季節は確実に冬へ近づいてゆく。  今年は降水量が少なかったため、収穫量は前年度の八割程度にとどまった。凶作というほどではなかったが、一族を苦しませないため、やや税率を下げるしかなかった。  税収が下がったところに加え、今はイザエラ族という、かつては砂漠の盗賊だった部族を丸ごと抱え込んでいるのだ。  天の扉を守護するアルス一族の長として、その突破を狙ったイザエラ族の族長を天へ差し出し、いくばくかの褒賞金を受け取り、それでどうにか足りない部分を補っているが、このままいつまでも彼らを養っていくのは不可能だ。
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