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ところ変わって、壬生村壬生浪士組屯所八木邸。
芹沢の部屋にてどんちゃん騒ぎが行われていた。
そこにいるのは新見錦は勿論のこと平間重助、平山五郎、野口健司、そして芹沢の恋仲にあたるお梅と共に酒を共にしていた。
彼らはこの壬生浪士組を牛耳る一派、水戸派と呼ばれている。
水戸派芹沢を筆頭とし、強引な金策などを行うため町中では良い評判はなかった。
だが、芹沢に憧れて下につくものは少なくはなかった。
近藤勇には劣るが…
「黒猫はん、全然呑でまへんね?」
煌びやかな女子が黒猫と呼んだ者の肩の上に手を添えた。
お梅は遊女のような濃い色香で、
女子が好む鮮やかな赤の着物と結いあげられた髪には着物の合うように同じく赤色の椿の簪を、
まさにお梅という名の女に相応しい容姿だった。
お梅は男を惑わせるこの容姿のせいかお梅は壬生村から疎まれていた。
が、芹沢に気に入られ昼夜共にこの屯所で過ごしていた。
芹沢に気に入られる――否、彼女が好んだこの場所にいた。
「あまり酒は呑めなくてね。一合が限界なんだ。ん……黒猫?」
「あんさん黒猫みたいな容姿してはるもん。綺麗な金の瞳に艶のかかった黒い髪色…。女のうちでも羨ましいわ」
「……お梅さん?」
「うち、お酒持ってきますわ。黒猫はんにはたくさん飲んでもらわんとね」
お梅は早々に芹沢を横目で部屋から立ち去って行くのだ。
芹沢と言えば酔いが戻ってきたのか機嫌が良い。
酒を飲みながら考える。
芹沢の賭けに乗ってしまったとはいえ、
彼が居座る壬生浪士組に入隊することは毛頭もない。
明日になればなんとかなるだろう。
あの男もさすがにあれほど飲んでいれば先程のやりとりなんぞ忘れるはずだ。
そんなことよりもだ、
さっさとこの酒の席から抜け出さなければ。
彼は黙々と酒のつまみを口にした。
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