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その翌日……
最悪な目覚めの仕方をした。
お梅に大量に呑まされた酒のせいで頭はガンガンと鳴り響き、
叩き起こされると覚醒もしていないのに芹沢に着物の襟を掴まれずるずると引きずられ向いにある前川邸のある一室に連れてこられた。
「芹沢さん、おはようございます」
「よぉ、土方」
部屋の主とは壬生浪士組の副長の一人、土方歳三。
近藤派の一人である。
近藤勇とは試衛館時代以前よりも旧知の仲である。
そんな土方は引きずられている人間と違い、
きりっとした目に、整った顔、長い黒髪を上に結い、藍色の着物を纏っている。
この部屋に向かうまでに何人かの隊士達とすれ違ったが、この男は独特の雰囲気を保っていたのだ。
ふと思ったのだ。
この男は芹沢以上に危険な香りがする……。
「近藤はいるか?」
「近藤さんなら自室にいるはずですが」
「そうか。ならば呼んで来よう。土方、こいつを頼む」
芹沢は頭をガッシリと掴むとワシャワシャ撫でるとこの部屋を出て行った。
で、ここに残されたのは土方と彼のみ。
二人の間には気まずい雰囲気が流れ込みだした。
二人とも己から喋らない性質だからか、一向に会話はなかった。
土方は筆を執り何かを書き始め、それを横目に刀を鞘から取り出すと手入れし始めた。
すると、沈黙が破れた。
「それは虎徹か?」
「まぁ。でももうそろそろこいつも駄目だね」
「人を斬りすぎたためか?」
「へぇ……。もしかして俺のこと知ってるのか?」
刀を鞘に入れると何かを見極めるように金色の瞳は目を細める。
軽く嘲笑っているのか、少し口が弧を描いていた。
土方は机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
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