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「鴨川の辺にて不逞浪士三名が背中に袈裟斬りを負い、即死。また西洞院小路(ニシノトウインショウジ)、同じく不逞浪士五名が急所を斬りつけられ即死。その他不逞浪士の暗殺が五件。全て同一人物と報告が上がってやがる。お前がやったとな」
「ふーん。なんで俺って?」
「大阪の鴻池(コウノイケ)、京の大和屋や島原、祇園の花魁の用心棒として雇われていた。殺された奴らは鴻池と大和屋に金策を行い、また花魁を何人か殺した奴らだ。お前くらいしか共通してねぇだろ?なぁ、長州藩脱藩浪士、辻斬り佐藤暁真(サトウアキマサ)」
土方は気味の悪い笑みを顔に浮かべた。
口で問い詰めることもなく、ただ目に暁真を映していただけ。
一度、呆けていた暁真は喉を鳴らして笑い、自分の手で視線を遮ると、また口元には弧が出来た。
「くっくっく……。それがどうした、土方歳三。俺を捕縛し、殺すのか?」
「殺しはしねぇ。むしろ俺の手足となってこの組で働いてもらう」
「はぁ?」
暁真はハトが豆鉄砲をくらったような顔をした。
土方から意外すぎる回答が返ってきたからだ。
この男ほどの器が不逞浪士とはいえ京で辻斬りを行っている暁真を野放しにするはずがない。
脱藩したとはいえ元は長州の人間だ。
捕縛、あるいは首を撥ねるかの処置はするだろうと思っていた。
だからこそ、驚愕した。
「近藤さんを本物の大名にするための道具になってもらう」
「道具だと?」
「あぁ。道具だ。幸か芹沢が何を思ってお前を連れて来たかわからねぇが、てめえから此処に来たんだ。利用しないわけねぇだろ?」
「随分と人を物みたいな言い方だな。しかも俺のことを知っているかのように話すな、お前はよぉ」
刹那、妖しく輝くものが土方の喉元にあった。
虎徹とはまた違う鞘に入っていた脇差が一瞬で土方の懐に入っていった。
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