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時は、文久3年、5月半ば。
この時代の京の都は不穏分子に包まれていた。
攘夷と佐幕がぶつかり合い、所々で斬り合いが起こっていたのだ。
お上の膝元のはずの京は今一番危険な場所とされ、町人達はにこやかに日々を過ごすことが出来ない。
そこで、
奉行と京都所司代では手に負えない治安の悪化に頭を悩ませた幕府は最高治安教官として京都守護職を設計した。
京都守護職の任についたのは現在の福島県である会津藩藩主、松平容保公が務めている。
最近この会津藩は隅々まで行き届かない京の治安を正すために壬生浪士組を預かりとし、京の治安を守らせていた。
その壬生浪士組の筆頭局長、芹沢鴨と局長の新見錦が顔を真っ赤に染め上げ、千鳥足気味に四条大橋を渡っていた。
どうやらこの二人は今まで花街を訪れていたその帰りらしい。
二人がこの橋を渡り切ろうとしたときひとつの黒い影が現れた。
外灯がないこの時代、夜は闇に支配されるため男か女か判断するのが難しい。
この影が怪しいものと判断した新見は芹沢の前に腰に携えてある刀の柄を持つ。
「何者!!」
「……壬生浪士組筆頭局長、芹沢鴨殿とお見受けする」
「ほう……、儂の名も有名になったものだ」
「芹沢先生、何を裕著なことを!」
感嘆した芹沢は自分の髭を摩り、乱れている着物の合わせを直して目を細める。
闇に慣れているはずの目は前に立っている黒い影を捉えることが出来ずにいた。
それはやはり酔いのせいだと言える。
黒い影はまるで水面に石を投げるとできる波紋のように芹沢からは見えた。
「貴様の命、頂戴する」
黒い影の口が弧を描いた。
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