戯言

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喉に突き出されている剣を気にせずに横目で新見に言う。 「貴様は早々に屯所に戻り、酒を用意しろ。眠っているお梅も起こせ」 「…承知いたしました」 そそくさと新見は言われた通りに橋を渡り切り壬生村の屯所を目指していった。 ぶつくさぶつくさと呟きながら。 芹沢は彼をただ目だけで送った。 その反対に黒い影は新見の姿が消えたことを何も思わなかった。 助けを求め屯所に向かったという考えは彼の頭の中にはない。 ただ、芹沢のことだけを考えていた。 「何を考えている!」 「儂が考えているのは酒と貴様のことのみ。貴様に殺されることは一切考えておらん」 「……どういう意味だ!」 「貴様にはもう殺意が感じられん」 「何?」 「その目、声、剣に篭られているのは怒り。儂はその怒りに惚れた。故に酒の席に呼ぶ。それだけだ」 「答えになっていないぞ、芹沢鴨!」 芹沢は鼻で笑うと喉に突き刺されている剣先を素手で握る。 手のひらからゆっくりと赤い鮮血が流れる。 一筋、二筋……。 そして地に滴となって赤に濡らす。 一筋の赤い筋が剣の鍔まで伝っていく。 するとそれは影の手を赤く濡らす。 闇の中にポツリと赤いものが浮かんだ。
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