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この二人が歌を聞いたのは、喧嘩別れをした直後だった。
彼のほうは自宅のラジオから、
彼女は商店街のスピーカーから。
なんでもない歌詞なのに、どこにでもいそうな声なのに、
なぜかいまの自分たちの心にはひどく響いた。
「愛、か……。」
ラジオを見つめていた彼が。ぽつりと呟いた。
「そういや最近、仕事ばっかりだったもんな。」
最近忙しく、なかなか休みがとれなかった彼。
やっととれた今日の休みで、自分はあまり話さなかった。
それを彼女は冷めてきた、と言いだししまいには一緒にいておもしろくない、とまで言われてしまった。
仕事の疲れも確かにあった。
でも、彼女のいるときは静かに心休みませたいという自分の思いとすれ違っていたのだ。
「あいつといると……落ち着くんだよな。」
それを勘違いさせてしまった。
言わないと…伝わるわけないよな。
この歌のように、彼女のことを愛しているから。
だから、伝えにいこう。
この想いを。
彼は慌てて家を飛び出していった。
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