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「それでは失礼します」
そう言うと澪人はあたしを抱き上げたまま立ち去ろうとする。
あたしは顔が熱くなるのを気にしないように、平然を装うのに精いっぱいだった。
なにせ、彼氏いない歴生きた年数だからである。男慣れしていない。
というか、男慣れしていても恥ずかしいんじゃないか、この体制はっ!
澪人ファンの子から遠ざかり、階段を下りてどこかに向かう澪人の背中をばしばしと叩く。
「か、階段こわいし、降ろして!自分で歩ける!」
「嫌だ」
「なんで!?」
そう聞くと、澪人は急に足を止める。
しばらく思いつめたように眉間にしわを寄せてから、侑里を下ろした。
一体どうしたんだろうか。
「侑里、澪人くん!」
そのとき、頭上から声がかかる。どたばたとメグちゃんが下りてきた。
「メグちゃん!」
「あんた達、今日は校舎裏のベンチで食べなよ。弁当持ってきたからさ、侑里のは。澪人くんはどうせ購買でしょ」
「ありがとう、メグちゃん!」
メグちゃんの優しさが胸にしみる。
今、上の階に戻っていたら確実に澪人ファンから質問攻めにあうところだった。
誰こいつ、という目で澪人はあたしを見る。
「あたしの名前はメグ。一応、あんた達の見方。デジタルカメラ、早く直してあげてね」
メグちゃんは微笑んで私にお弁当を渡すと、再び階段を上って行った。
「事情は知ってるってわけか」
澪人はメグちゃんが立ち去った後を見つめてつぶやくと、あたしの腕を引く。
「あっ…」
もしかしてこいつは、あたしと律儀にお昼を過ごすつもりなのだろうか。
「俺は今、おまえの彼氏だからな。一緒にいないと意味がないだろ」
あたしの考えを見越してか否か、澪人はそう言って早足で歩く。
彼女のふりをして、これから疎まれることになる。
そうわかっていても、こいつの手を払いのけることはできない。
約束があるから?
…違うよ。
だって、本当に嫌いだったら、引き受けないよ。
彼が触れたところから熱を持つのは、
男慣れしていないからなのか、
彼が気になるからか。
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