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「お兄ちゃん?話って何…」
「侑里ぃぃ~!」
あたしがリビングに顔を出すと、お兄ちゃんは泣きながらダイニングテーブルに突っ伏していた。
思わず顔が引きつる。
大の大人の男が酒に酔ったわけでもないのに大泣きしている。
あたしにとってはよくある光景なんだけど、やっぱり、ちょっとうろたえる。
「何があったの?」
あたしが隣の椅子に座ると、お兄ちゃんは、がばっ、と身を起して、あたしの両手を握りしめた。
「侑里!愛しの侑里!お兄ちゃんのお店で働いてくれないか!」
「え……」
「お給料、お兄ちゃんの分少し分けるからっ!それでもって、お友達も呼んでっ!」
かなり焦っているようで、元々白い肌を、さらに青白くして懇願してくる。
そんな彼の気迫に負けて、働くくらいなら、と考えてみる。と、いうより。
「何があったの?従業員の人は?」
お兄ちゃんのお店ではちゃんとした従業員がいたはずである。
しかし、お兄ちゃんはその一言で涙がさらにあふれてしまったようだ。
「そ、それがね侑里。店のコンセプトを変えたら、みんな出て行っちゃったんだようぅうわーぁぁぁん」
果たして本当に兄は、今年で26歳なのだろうか。
「働くから!バイトとして働くから、これ以上泣かないでっ。近所迷惑だよ」
その一言を告げた途端、お兄ちゃんの動きがすべて停止する。涙もとまり、目を見開く。
「本当に、本当にうちの店で働いてくれるの!?」
きれいな金髪を振り乱して顔を近づけてくる。
あたしは今、別にバイトもしてなかったから、時間もある。
黙ってうなづくと、お兄ちゃんはこの世の終わりみたいな顔から、一瞬にして、この世の始まりみたいな顔になった。
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