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何事かと階段を降りてきた則之が、電話を片手に呆然と突っ立っている有紀子から、電話を奪うように取ると
「もしもし、どちら様ですか?」
「早朝にすいません。中央署の者ですが、息子さんはご在宅でしようか?」
受話器から、さっきと同じ質問が漏れ聞こえてくる。
「柚希は多分、部屋で寝ている…」
寝ているはず。そう言いかけた時、騒ぎを聞きつけて階段の半分くらいで顔を覗かせていた愛美が、居ないよと言うように首を横に振った。
「柚希が何かしたんでしょうか?」
「居ないのですね。説明は署の方でしますので、取りあえず中央市民病院に来て頂けますか?」
「柚希どした?」
受話器を持ったまま立ち尽くしている則之を覗き込んで愛美が聞いた。
「ちょっと行ってくる。母さん支度しなさい。」
則之は静かな声で、有紀子を促した。
「わかった。」
喉の奥から、これだけの声を出すのが精一杯。
今の受話器から漏れ聞こえた意味が理解できた訳ではない。自分の声がかすれているのが分かる。
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