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「……さてと、冗談はここまでにして。ふふっ、やられたわ。きっとあの子はスリの常習犯ね」
紗羅那は何か面白いものでも見つけたように、先ほど以上の笑みを浮かべている。
だがいつもの紗羅那の笑顔とは違い口元は笑っているが、目は笑っていないので、彼女が怒っているのだと満月は直感的にそう感じていた。
実は子どもが紗羅那にぶつかった時、誰にも気付かれないほどの速さで彼女の着物の袂からあるものを盗み出した。
紗羅那が気が付いたのは子どもが走り去った後なので、追いかけようにも追いかけられなかったのだ。
「この私を出し抜くだなんて、いい度胸してるわねぇ。……満月君」
途端に紗羅那の空気が変わる。
冷たい殺気が辺りを包み込み、灼熱の熱気が砂漠地帯特有の夜の寒々しい冷気と入れ替わったような錯覚に陥られる。
それは紗羅那と付き合いが長い満月でも背中に冷や汗をかくほどだ。
もちろん、無表情を決め込んでいる満月は感情を顔には出さないが。
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