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青年は素早く左腰の鞘に収まったナイフの柄を握る。
そして、そのまま勢いに任せてナイフを引き抜き魔物の身体を切り裂いた。
綺麗な弧を絵描くナイフに身体を裂かれた魔物。
魔物の腹が横に裂け、ドサリと音をたてその場に崩れ落ちた。
地に伏した魔物は暫くの間悶え苦しみ、やがてピクリとも動かなくなった。
まるで死んだことを決定付けるかの様に魔物の身体が雲散霧消する。
足の先から膝、太ももと魔物の身体が消えていく。
「魔物になったばかりの人間か……」
可哀想にと呟いた青年は暫くのあいだ両目を瞑り項垂れた。
呆気にとらわれた少年はただただ、その光景を見ていることしか出来なかった。
何が起こったのか全く理解できない。
すると、青年は少年の存在を思い出したのか頭をあげ、その方へと顔を向けた。
「馬鹿か、お前は! 死にたいのか!」
突然青年は怒号をはった。
ビクリと肩をすくませ我に返った少年。
目の前の光景が一気に頭の中へと流れ込む。
「……ぁ……ぁあ……」
全てを理解した少年は、途端に悲しみが込み上げ、闇へと消える魔物に力なく近づいた。
少年はその小さな手で魔物を抱き寄せ、今度は大きな声を張り上げて泣き出した。
噎せかえるのではないかと思う程の大きな声で。
幸か不幸か、腕の中から消え行く魔物。
少年の泣き叫ぶ声は森全体へと響いていた。
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