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夜のお茶会
「千尋―、今日の予定は?」
「家でダラダラー。」
ソファに座って本を読んでいた千尋に、部屋、早く片付けなさいよ、と声が掛けられる。
隣とは1部屋多い間取りの部屋は、いまだ片付かれていない段ボールが積み重なっていた。母はいつもの通り花屋の仕事だ。母は靴を履きながらさらに声をかけてくる。
「千尋、私明日結婚式の方に行かなきゃならないのよ。いつもみたいに夕ご飯食べたら向こうに泊まるわ。」
「ん、わかった。」
「3月、結婚式が多いのよね。日曜だけじゃなくて平日でもそうなる日が出てくるかも。」
母の働いている花屋は、結婚式場の花も飾っている。結婚式の多い日曜日は早朝から花を受け取ったりしているので、少しでも長く寝られるようにと花屋の2階にある女性店長の住居スペースに泊まらせてもらう事になっているらしい。
「仕事大変だね。大丈夫?」
「休みはちゃんととるから大丈夫。じゃぁ、行ってくるわね。」
母が出て行ったとたん、1人になる。まだ慣れていない部屋だからと言う理由もあるが、1人は千尋にとって苦手なものだ。
お母さん、夜いないのか。
今出て行ったばかりだと言うのに、なぜだか孤独を強く感じてしまう。
「かと言って、もらったばかりのメルアドに連絡するのもなあ。」
リビングに戻り、ソファに膝を抱えて座った。携帯電話を取り出し、ストラップを持ってプラプラさせる。ちらりと見た壁の時計は、7時を指していた。
「ギリギリ、かなぁ。」
慣れた手順で1人の電話番号を表示させる。ためらっていたのが嘘のように、淀みなく通話ボタンを押した。
…1回…2回……
でた。
『俺は今から寝るところ。っまあ、ギリギリセーフだな。』
笑いながら言う声は、いつも千尋に安心感を与えてくれるものだ。
「だろうな、と思った。」
『今、外か?』
「ううん、新しいお家。お母さんは仕事に行った。」
『休みは月曜と木曜だっけ。働きもんだよなぁ、幸さん。』
「だよねぇ。明日結婚式だから、花屋に泊まるんだって。働き者だぁ。」
『じゃあ、夜は千尋一人か。こっち来るか?』
一人でいるのに耐えられない千尋にとって、その誘いは魅力的なものだ。いつもは誘われなくても行っている。
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