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そこまで言われて、やっと悠介の言いたい事が伝わった。聡が悠介に対して嫉妬するんじゃないのか、と言いたかったらしい。つまりは、彼氏がいるのに別の男の家なんかに行っていいのか、と。
「ああ。違うよ。サト君と付き合ってないもん。仲の良い相談相手。…それに、サト君にここに来た事言ったけど、何も言ってなかったよ。」
「そ、そうか。」
腑に落ちないように答えるのに、千尋は苦笑する。悠介の考えている事は分からない事もない。いつでも会いに来ていいとまで、恋人同士なら分かるが異性の友達に普通は言わない。なぜそこまで受け入れてくれるのか、理由はなんとなく分かるが、人には言えない事だった。
話を戻し、千尋の両親がどうゆう風に仲が良いのか、どんな性格なのかを話した後、悠介の両親の話になった。
「別に、普通の家族だよ。母親は大人しい人で専業主婦をしていて、たまに教師をしている父親と喧嘩もしていたな。教師をしているだけあって、少し厳しい父親だったんだ。」
「教師か。…なるほどねぇ。」
千尋の言葉に、悠介は首を傾げる。
「なにがなるほどなんだ?」
「んー…態度とか、口調とか、どことなく先生っぽいもん。お父さんの影響なんだ。」
「そうか。自分では気付かなかったな。教師である父さんを嫌っていた時期もあったし。」
その頃を思い出したのだろう、悠介は苦笑して言葉を続ける。
「大学の頃に、家庭教師のバイトをした事があるんだ。だからかな、どうしても学生を見るとつい、ね。」
「先生みたいになってしまう、と。….ね、良い事考えた。これから先生って呼んでいい?」
「今は普通の会社員だよ。さすがにそれは止めてくれないか。」
苦笑して止められたが、良い提案に思えるそれを取り消すつもりはない。
「いいじゃん、似合ってるよ。まさに先生って感じしてるし。ね、センセ。」
「じゃぁこっちも本多と呼ばせてもらうよ。」
「はは、まさしく先生だ。」
悠介と話していると、とても楽しいと感じる。いつも自分を付きまとう孤独を忘れるぐらいに。
「じゃぁ先生らしくしてやろうか。…もう夜遅いから、家に帰りなさい。」
壁に掛かっている時計を見ると、いつの間にか11時近くになっていた。
「…はぁい。」
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